色男の悩み


男は友人と喫茶店にいた。同じ大学の同年で高校時代からの仲である。
「どうやっても別れられないんだ」
「俺の助言も役に立たなかったか」
身長182cm、細身でありながら引き締まった筋肉がついている。髪は流れる水のようで、端正な顔立ちは時代に左右されない美しさ放つ。眉目秀麗とはこの男を見て作られた言葉ではないか。
「言われた事は全部やったよ。浮気、ギャンブル、暴力は流石に振るわなかったけどね」
大学では秀才として知られ、成績は常にトップクラス。この男を放っておく女がこの世にいるとは思えなかった。
「駄目か。なら俺に出来るアドバイスはもう無いな」
男には恋人がいた。この男と付き合えるくらいだから、当然美女である。事実、大勢の男達の求愛を蹴って男を選んだのである。
「だが、羨ましい限りだね。普通、男っていうのは付き合うまでが大変だ。別れるのが大変だなんてお前くらいだよ」
取り立てて不満があるわけではない。しかし、どんなものでも飽きがくる。男はもうその女性に飽きていた。
「どんな女もそうだ。最初は可愛らしいが段々束縛し始める。他の女と喋る事にも妬きはじめて、仕舞いには結婚を迫ってくる。こっそり針でコンドームに穴を開けてた女もいるよ」
男はテーブルのコーヒーカップを手に取りながら言う。
「今日だって本当は女に会うんじゃないかとしつこくてね」
「俺の携帯にも電話が掛かってきたよ」
「振られる男の辛さが知りたい」
「言ってくれるね」
時刻は午後3時を回ろうとしていた。日曜日なのに客は疎ら。道行く人は皆半袖で、夏はもうそこまで迫っていた。
友人は片腕を首の後ろに回しながら天井を見上げた。コーヒーを啜りながら男はしみじみと言う。
「女を振るのは大変だよ、下手に怒らせると後が悪い。やれ二股かけられただの、暴力を振るわれただの。自分に都合の良いようにある事無い事言いふらして、残るのは彼女への同情と俺への悪評だけさ」
男はうんざりしたように吐き捨てた。友人は男の隣へ座り直し肩に手を置いた。
「だから女なんか止めとけって言ったんだよ。いいか、男の気心が分かるのは同じ男だけだよ」
そう言って、男の手をそっと握った。
「そうだな、本当にそうだ…。今日は相談に乗ってくれて有り難う」
男は残った手を友人の手の上に乗せた。それを見てマスターはそっぽを向き客の一人は慌てて店を出て行った。

S公園のベンチに二人の男が座っている。陽射しが強く6月とは思えないほど暑い。
「どうだ、その後は」
「上手くいったよ」
日曜の公園はカップルや家族連れで賑わっていた。子供が噴水の中でしきりに水を叩いている。陽射しを受けた水飛沫は、弾ける笑顔にソフトフォーカスをかけていた。
男の携帯電話が鳴り着信番号を確認する。
「新しい女か?」
「まあね」
「懲りないなあ」
「懲りたら男を止めなきゃならないだろ」
友人は手を差し出した。
「しかし、あの時の顔を見たか? 彼女ぎょっとしてたぜ」
「大学であの子の友達に会ってさ、気持ち悪そうな顔してたよ。あれは間違い無く伝わってるな」
それを聞いて友人は笑った。
「色男の宿命だよ。世の俳優にもその手の疑惑がつきまとうだろ。あれもきっと俺達と同じ手口を使っているのさ」
そう言って友人は笑い男も釣られて笑った。男は財布から1万札を取り出し友人はそれを恭しく受け取った。